不法行為訴訟の陪審審理を止めるべきだ。懲罰的損害賠償の高額化も問題だ。不法行為訴訟に陪審を利用するのも問題だ。判事による判決は陪審の判決よりも確かに健全だ。感情に流されないように、そして証拠を正しく評価するように判事は教育を受けているからである。多くの不法行為訴訟では、専門家証人を呼び、彼らはかなり専門的な問題を論じる。製品が病気の原因であるかどうかを評価することは、ほとんど誰にとってもむずかしいが、陪審にとっては、通常その分野での能力と適性がないから特にむずかしい。彼らは、主に弁護士による情緒面での訴えと専門家証言に基づいて、素人なりに判断せざるを得ない。判事も専門的分野では素人だが、普通、陪審よりは弁護士の情緒的な訴えにはるかに影響を受けにくいし、判事は科学的疑問にアプローチする方法を学ぶことができる。例の、ドーバート判決(第6章で論じた)で最高裁判所が命じたように。また、陪審の裁定額、特に懲罰的損害賠償額の莫大さも問題だ。判事は、陪審の評決後に損害賠償額をしばしば減額するが、巨額な裁定はインフレ的圧力を生む。諸外国では民事訴訟では陪審審理を行わないし、私達も不法行為訴訟に対しては陪審審理を止めることを考えるべきだ。集団訴訟の濫用を防ぐ法律改革、製造物責任法の再検討が必要だ。その他に必要とされる法律上の改革を挙げてみよう。まず弁護士が労せずして金儲けできる手段として、集団訴訟をますます濫用したことに注目すべきだ。加えて、製造会社にバイオマテリアルを売った供給会社が、製品化の企画にも、製品の品質検査にも一切関係がないのに、製品から損害を受けたとして訴えられるのを許している法律を、おそらく再検討すべきだろう。これらの問題に取り組むことは重要だが、私の判断では、さらに重要な改革がある。それは、法廷で科学が取り扱われる方法を改革することだ。もし、豊胸材訴訟で、科学的な判断基準がほんの少しでも存在していたら、ひどい欠陥のある法律システムでさえ、そんな弊害をもたらさなかっただろう。法廷における科学が、法廷以外の場におけるほどには信頼されないという理由はない。法廷での科学的水準を上げることが最重要で、そのために、判事が任命した優れた専門家を証人として呼ぶことをルーチン化すべきだ。彼らは中立の立場から、科学文献から証拠を引用しつつ必要な科学的知識を裁判のために解釈することができる。法廷での科学的水準を上げるために成し得る最も重要な改革は、反対陣営の弁護士に雇われた証人に頼るよりも、むしろ判事が専門家の証人を任命することだろう。「国立科学アカデミー」(NationalAcademyofScience)、「アメリカ科学振興協会」のような定評ある科学団体から、優れた専門家を裁判所に推薦してもらうことはできよう。こういった証人は中立だから、言い換えると、どちらの代理でもないわけで、彼らの最重要な任務は、係争中の問題についてその時点での科学的知識を裁判のために解釈することになるだろう。それは学術雑誌に総説を書く仕事に似ているかもしれない。専門家は、彼らの解釈を裏付けるために科学文献から証拠を引用することを求められるだろう。判事はそういう証人を今でも任命してもよいのだが、めったに任命しない。その実施をルーチン化すべきだ。信頼できる専門家証人を呼ばなければ、今後も、法廷における科学は、事実と憶測、客観性と自己利益とが混ざった、わけの分からないもののままであるだろう。陪審の評決もやはり同じ程度不可解なままであるだろう。
[参考]
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