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肉体を持って生きている実感

あなたは、その名もない丘からの風景を、それまでにも車で来て目の当たりにしたことがあった。その眺めはよくわかっていると思っていた。だが違うのである。まったく質的に違うのである。たとえ途中で押したにせよ、自転車で、自らの身体を使ってそこに辿り着いて眺めた風景は、アクセルを踏んで手に入れた眺めと全然異なるのだ。風の匂いも、その丘の高さも、陽射しの輝きも。その感動は小さなものかもしれないが、しかし深い実感を伴ったものである。

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流した汗の分だけ、あなたにとって世界は変わる。これはアルキメデスの原理と同じほどに真理である。疲れたら、休めばいい。夏の日に愛車を立てかけて休んだ遠い野辺の1本の大樹の木陰は、記憶のなかで忘れがたい清涼感をあなたに与え続ける。上れない坂は、自転車を押せばいい。次に来るときは上れるかもしれない。努力なくして、達成感はないし、労なく楽にできることに、有難みはない。自転車の旅は、苦労も多いが、この世界に肉体を持って生きていることのかけがえのない実感をあなたに与え続けてくれるだろう。